ふと見上げた大木に梯子が掛かっていたので
そこに登る人のことを思った。
頑丈で、すべすべで、ひんやりした枝にこしかけて
風の音を聴きながら本を読んだら楽しいかもしれない。
木登りなんて日常ありえない素敵な考えは
心に風を通して、からだを軽くしてくれた。
自分のものではないと、なんでもただ
好き勝手に想うことができる。
そして
夏の最初のその美しい大木は永久に失われてしまった。
切り倒す前、枝を落とすために掛けられた梯子で
その哀しみを微塵も感じることなく
その最期の美しい姿を楽しい想像とともに
永久に心に焼き付けてしまった。