堀江敏幸『正弦曲線』に、
ベンチで読書をしていたところ、雨に合い
慌てて落ち葉を栞にした、というような話があった。
落ち葉を栞にするひとといったら、母を思った。
彼女はいつもペーパーバックを読んでいる。
栞は何かのメモ用紙のこともあるけれど
落ち葉のこともある。
10代の頃、初めて外国に行ったときに、
お土産は何がいい?と聞くと
「おかあさんは、落ち葉みたいなものがいいわ」
と答えた。
わたしはそのときお世話になった家の前の
メープルの葉をひと月くらいの間、大切に本に挟んで
持ち帰ったのだ。
落ち葉は、記憶よりはずっと脆いもののはずだけれど、
本棚に並ぶ古い本を見ていると、それが今も消失しないで
そっと、どこかに挟まっているかもしれない、と思う。