ペルセウス座流星群の日
窓辺に置いた脚立からしばらく眺めていた
夏の夜空。

月が明るすぎて、彗星はひとつも
捉えられなかったけれど、
見えない流星群の中に輝いている月と
その時間は、悪くなかった。

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# by favoriteworks | 2011-08-13 01:28 | 観る、読む
うつくしく、やさしく、おろかなり
長く生きていれば病のひとつも患う。
けれどわたしは変わらぬわたしのままで
こうして今しばらく生きることを赦されている。

このごろは、人生の意味を考えるようになった。
わたしは、なんのために生かされているのだろう?

すると江戸の人が答えてくれた。
なんのためでもいい。
とりあえず生まれて来たから、
いまの生があり、そのうちの死がある。
それだけのことだ。
人生の意味を問うなんて野暮だった。
生意気だった。青かった。

すべからく経済の世、風の流れぬ里となって久しい現代では、
年相応に老け衰えつつ、それなりの人生を死ぬまで生きる
というあたりまえのことが遠くなった……と
杉浦日向子さんは江戸のフィルタを通して語りかけてくる。

『うつくしく、やさしく、おろかなり 私の惚れた「江戸」』
杉浦日向子/筑摩書房








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# by favoriteworks | 2011-08-11 00:30 | 観る、読む
夏の雨
夕方、突然の驟雨に見舞われる。
カフェは満席、商店街は喧騒のなかにある。
ひとつ、雨宿りにいい場所があった。
それは図書館。
静かで、無料で、冷房は効き過ぎていない。
すわって、閉館ちかくまで本を読む。
日が射したかと思うと強く、
雷鳴がとどろいたかと思うと弱く、
いつまでも降りやまないので仕方なく濡れて帰る。

何度こんなふうに、雨に降られたことかと思う。
いくつもの記憶の向こうに、夏の雨が降っている。


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# by favoriteworks | 2011-08-09 21:36 | others
小村雪岱
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泉鏡花『遊里集』装幀

描かれる人物は人形あるいは仏像のような顔をしている。
「個性のない人物、これが私の絵の特徴で……」と言っている。

では個性のない人物を描いてどこに興味を置いてゐるのかといへば、私はあの能面の持つ力に似たものを希(ねが)つてゐるのです。能面は唯一つの表情です。しかし演技者の演技如何によつては、それがある場合は泣いてゐるようにも見え、またある場合には笑つてゐるようにも見えます。つまり私は個性のない表情のなかにかすかな情感を現したいのです。それも人間が笑つたり泣いたりするのではなく、仏様や人形が泣いたり笑つたりするかすかな趣を浮かび出させたいのです。『小村雪岱作品集』小村雪岱 / 阿部出版株式会社


それは、見る者の心情如何によっても、いろいろに見えるということ、
空想に遊ばせてくれる余白を意識的に備えた芸術ということでもある。

本の装幀、きものの意匠も美しい。
紙や、絹織物のうえに息づく、美について想う。



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こぼれ松葉






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# by favoriteworks | 2011-08-08 09:51 | 観る、読む
おかしな本棚
本棚の本。
本棚は冷蔵庫と同じで、その主を端的に語る。

さすが装幀を仕事にするクラフト・エヴィング商會。
古書店であれ、誰かの家であれ、こんな本棚があったら
じっと見つめてしまうと思う。
愛すべき本棚に、手にとってみたい魅惑的な背表紙。

もし、この本の中で紹介されている本を実際に
読んでみたいと思うのなら、なんといったって、
クラフト・エヴィング商會のことだからと肝に銘じ
用心深く選ばなければならない。
読もうと思ったって、架空の本も紹介されているのだから。

騙されるとわかっていてちょっと騙されるのもいいと思う。
それが自分にとって魅惑的なものであるのなら。

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紙の本は、声をのせて給する皿だという。
世が電子書籍の時代になって、
本という名の皿がことごとく割れてしまっても
読者のなかに声は残るという。
だいじなのは声であって、皿ではない、けれど。

が、主役に輪郭を与える皿の妙が、皿の模様や皿の材質や
皿の薄さ厚さ重さ軽さが……床に落とせば割れてしまう
はかなさも含めて……思いがけない「おまけ」を生んできた。


おまけの楽しみが失われるかもしれないということ。
本好きが共有する心配ごとかもしれない。

『おかしな本棚』クラフト・エヴィング商會 / 朝日新聞出版










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# by favoriteworks | 2011-08-02 20:24 | 観る、読む
竹流し
京都から二条若狭屋の竹水羊羮が届く。
母の親友が御供にと送ってくださった。

水に濡れた青竹の香り。
竹の筒底に錐で穴をあけて
つるりと流し出す涼やかな水菓子。
みずみずしい小豆の透明な甘味。

わたしは母がこれを家族みんなに分けて
行き渡ったのを確認してからゆっくり
黒文字などを使って食べる様子を
思い浮かべている。

もうじき八朔、土用稽古といそがしくする
母の素敵な親友に、これから手紙を書く。

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# by favoriteworks | 2011-07-31 14:47 | food
金魚
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露路の池に遊ぶ金魚

玄関に掛かったのれんに
写しとられたような金魚

夏の客を愉しませる設え

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# by favoriteworks | 2011-07-30 16:22 | others
まなざしの記憶 だれかの傍らで


肌理


距離

本の題名とその中に並ぶ章の題名に惹かれて買い求め
その日の電車の供とした。

他人の思いや感情を想像する力は、
誰かとともに食べる中で育まれていくという。
味わうというのはとてもプライベートなことだから。

というようなことが書いてある。
自と他を意識する。覚悟する。

だれひとりもが望むもの。
それはじぶんという存在が祝福されてあることだ。
おまえなんかいてもいなくてもいいという顔をされるほど
辛いこと、悲しいことはない。
ひとは誰も、ここにいるのはじぶんでなくてもいいのではないか
という想いから、死ぬまで解き放たれることはない。


あなたが生きていてくれてよかった
と思うとき、人は花を贈るという。
咲くこともしぼむこともふくめて、
いのちのしるしとして。

独りの感覚。心地のいい寂しさ。
自と他を意識した末に確認する
親しいひとへの想い。

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『まなざしの記憶 だれかの傍らで』写真:植田正治 文:鷲田清一
/ 阪急コミュニケーションズ







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# by favoriteworks | 2011-07-27 22:04 | 観る、読む
日々の100
松浦弥太郎さんの愛用する100の品。
知らないものもあれば、よく知るものもあった。
どれも気持ち良さそうなものだと思った。

松浦さんのNYやサンフランシスコ、
アメリカの田舎の話を読むといつも、
空気の匂いが変わるのを感じて目を閉じる。
わたしもそこにいたかもしれないと思う。

全体を通して何か、とても共感してしまったのは
自分と好きなものが似ている、ということではなくて
好きになる過程、あるいは条件のようなものが似ている
ということ。

誰がそれをつくったか、デザインしたか、
あるいはどのような縁でそれを入手したかといった
ものの奥に存在する人とのつながりを大切に想っているところ。
たった一枚の紙切れでさえも。

好きな一文。

本を読むことは独りで旅にでることであり
旅をすることは独りで本を読むことである


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『日々の100』松浦弥太郎/青山出版社
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# by favoriteworks | 2011-07-25 00:28 | 観る、読む
台所の窓から見た花火
ゴーヤーチャンプルーを食べていたら
花火の音が聴こえた。
夫があっと言ったので、ふりかえる。
台所の小さな窓から、何軒もの家越しに
ささやかな花火見物。

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# by favoriteworks | 2011-07-23 22:33 | 観る、読む
わたしは驢馬に乗って下着をうりにゆきたい
鴨居羊子コレクション『女は下着でつくられる』より
『わたしは驢馬に乗って下着をうりにゆきたい』

昭和20年代後半~30年代のこと、新聞記者の職を辞して
下着デザイナーとなった日々を綴ったエッセイに惹かれた。

鴨居羊子は自分の会社を、ロンドンタイムスのように小さくて、
しかも権威がなければならない、と決めて起こした。
そのヴィジョンは常にくっきりと潔く語られていく。

私の下着会社が権威をもち、独自のオピニオンをもち、
指導力のある商品を市場におくりだすためには、
純度をまもる点において小さくなければならない。
生産枚数を多くすれば、きっとウドの大木になるだろう。
私の会社は小さくあらねばならない。
それが独自の権威あるオピニオンと指導力のある商品をつくる
私の会社の存在理由であるはずだ。


ものを批評したり紹介したりする立場と、ものづくりをする立場と
どちらも素晴らしいと言う。けれども彼女はものづくりを、
商売をすることを選び、その情熱を冷静に記述した。

宣伝効果というものはガソリンに近づけるマッチのようなものだ。
一本のマッチで大爆発が起きる。
だから自分のマッチの数を増やすことばかり考えないで、
ガソリンのあるところ、ガソリンの状態をよく知ることが先決。
消費者の欲求は潜在需要という爆発力を秘めたガソリンに似ている。


時々夢想する、ものづくりをする人に必要な資質。

私が今ほしいのは、近代的なビルディングでも
何百坪の合理的なオフィスでもない。
海と野原に囲まれた工場で、できたての商品を
ロバで運んでいる自分の妙な姿だった。


取材する立場、取材される立場。
わたしがいつも思っていることと類似していた。

表面的現象をなでるような質問には、それに順応した答えを素直にしよう。そのような質問をする記者とその新聞は、私にそれしか求めていないのだから。しかし、無駄でもいいから、その記者に私の考えていることを十分にしゃべってみよう。それは、その新聞を相手にするというよりは、記者を、その人間を相手にすることである。彼の生活と判断力に訴えてみよう。私の考えに理解を示して、それが原稿となり、そのあとで原稿がデスクにより、整理部によってカットされたとしてもその記者の頭に宿った私の考え方はいつか社会に、何らかの形で働き始めるだろう。


好きな一文。

闇の中で、私は不幸なときの幸せは、たった一言の不平の言葉さえはかなければ得られるんだと思った。



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『女は下着でつくられる』鴨居羊子 / 図書刊行会








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# by favoriteworks | 2011-07-22 08:57 | 観る、読む
銀座
口紅をつけてしまったきものを
自分で染み抜きしようとしてうまくゆかず
仕立てた店で相談すると、金輪際、自分では
何もしないで持ってくるようにと言われる。

染み抜きに出していたのが戻ってきたと連絡があって
取りに行くと、果たして代金は不要であった。

毎月のように「銀座百点」を持ってきてくださる
店もある。それはちょっと恐ろしいことだ。
そのうち、反物を持ってきてくださる……
なんて状況は身の丈に合わぬ夢だから。

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「銀座百点」は、でもうれしい。
銀座百店会が発行している小冊子で
立川志らく、藤田宜永の連載がおもしろい。
最近では吉田篤弘も連載している。
読み続けるうちに、銀座がだんだん近くなる。

何を宣伝しているかすぐわかる、一昔前風の広告は
誠実なところが銀座らしい感じがする。
それに惹かれて立田野で食べた氷宇治金時は、
今まで食べたなかで一番おいしいかき氷だった。
かき氷の贅沢を自分に許す。

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銀座はどんどん変わっていくけれど、
古くからある建物と、建て替わっても風格のある
老舗がすてきだ。
ウィンドウショッピング、古い建物ウォッチング
だけでじゅうぶんゆたかな気持ちで過ごすことができる。
そうして昔の記憶と出合いながら、銀座を歩く。
楽しくて、懐かしくて、ちょっと寂しい気持ちで。





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# by favoriteworks | 2011-07-18 17:56 | 散歩
LIGHT BLUE×DARK GREEN

光と木々のエネルギーを浴びると
心も身体もクリアになる

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# by favoriteworks | 2011-07-16 18:01 | 散歩
鬼灯をもって
ほおずきをもって裏通りを歩いていたら
そこだけ異質のあかるさの、行灯のようなそれに
やわらかい視線や笑みが集まってきた

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# by favoriteworks | 2011-07-09 21:17 | 散歩
神田志乃多寿司のお稲荷さん
小さめのお稲荷さんの中に控えめに
薄いハスが入っているのが気に入っている
谷内六郎の絵が懐かしい

お稲荷さんは懐かしい味がする
作りもするし、買いもする
リアルタイムの食べものなのに懐かしい

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# by favoriteworks | 2011-07-03 14:21 | food
ミツバチの羽音と地球の回転

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2010年から自主上映会が各地で続けられている
鎌仲ひとみ監督によるドキュメンタリー映画。

祝島とスウェーデンでエネルギーの自立に取り組む人々の
希望に光をあてている。
それは、原発推進と反原発の対立を超えた先にある。

祝島の海で一本釣りをする漁師、岡本正昭さん、
放牧豚の飼育をする氏本長一さんと頼もしい犬、
そして島で一番若い働き手、枇杷やヒジキを採り、
太陽光発電などエネルギーの自立にも取り組む山戸孝さん、
逞しく働き、明るく笑うおばちゃんたち。
彼らのいきいきとした表情や、島への愛から生まれている
言葉が煌めいて、心の奥を打った。

それとはまるで対照的で印象に残ったのが、
町の職員、電力会社や経済産業省で働く人々の表情のない顔と
空虚な言葉たち。
くっきりと、浮き彫りになっていた。
彼らの表情と言葉は何処へいってしまったんだろう。

知らないことも、考えなければならないこともたくさんあった。

監督の言葉。
「目に見えないものを見えるようにする作業をし続けて、
そのあまりの広がりと深度に時々くらくらすることもあった。
しかし、その眩暈よりもなお、この世界の本質的なあり方や
事実にはっきりと気づくことの快感のほうが勝っていたように感じる」

たくさんの人に観て、考えてもらいたいと思う。

ミツバチの羽音と地球の回転










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# by favoriteworks | 2011-07-02 23:19 | 観る、読む
切干し大根
蒸し暑い季節に味わう切干し大根。
厚めのお揚げを合わせて含め煮たのを
たっぷりつくって冷やしておく。

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# by favoriteworks | 2011-07-01 09:23 | food
東京は素敵なドーナツ
東京は「素敵なドーナツ」だという。

ドーナツ状になっていて、誰もがメリーゴーランドのように
線ではなく円環の移動を強いられる。
環には経済や流通のせわしない流れがあり、真ん中に空いた穴の部分、
緑でおおわれた小さな島には、外側とは異質な時間が流れる。

というようなことを『アースダイバー』の冒頭のほうで
読んだときには、自分も車に乗って幾度となく周っている、
皇居の緑が目に浮かんだだけだった。

いまの東京の古代の姿、土地の記憶が持つエネルギーについて
おもしろく読んで、本のページが終盤にさしかかったところで
再び皇居が出てきたときの印象は、最初に感じたそれとは
すこし異なっていた。


ぼくは夢想する。双系原理によって立ち、都心部にあっても、
自分のまわりをとりかこむ騒音にすこしもそまらない森の奥で、
おだやかな森番のようにして生きる天皇が、ある日つぎのように
世界に向かって発信するのである。

「わたしたちの日本文明は、キノコのように粘菌のように、
グローバル文明の造りだすものを分解し、自然に
戻していくことをめざしている、多少風変わりな文明です。
そしてわたしはそういう国民の意思の象徴なのです」

『アースダイバー』中沢新一




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# by favoriteworks | 2011-06-30 23:55 | 観る、読む
縄文聖地巡礼
自然界の物質は、地球から取り出すから限りがある。
ところがそれを交換するときには、限りのない「数字」
でやっている、ということの考えのなさ。

非線形であるはずの自然や科学や芸術に商業化をからめて
線形にしていったときの、歪み。

行き詰まりの突破口となるかもしれない縄文、という考えかた
というより円環、線でない時の流れに深くひきこまれる。

『縄文聖地巡礼』坂本龍一 中沢新一

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# by favoriteworks | 2011-06-29 16:41 | 観る、読む
NATIVE TIME
縄文の時の流れにむかって目を凝らす。

太古の昔、文字に書かれた歴史が始まる以前
日本が日本になる前に、この島に流れていた時間
について、想いを馳せてみる。

はじまりもなければおわりもなく
直線ではなく円環を描いて万物が再生するという
その時の流れに。

いうならば縄文時代、縄文的生き方の時代というのは、今ぼくたちが生きているような、時間が直線的にあるいはジグザグを描いて、いつの間にか大地から切り離されて破滅にむかう世界ではなく、もうひとつの時が大きなサイクルを描きつつ、あらゆるものが有機的に再生し続けるという認識のなかで人びとが地球とつながっている別の世界、われわれの世界と平行して存在する別の世界を言うのである。

『ネイティブ・アメリカンとネイティブ・ジャパニーズ』北山耕平


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# by favoriteworks | 2011-06-25 18:10 | 観る、読む