長く生きていれば病のひとつも患う。
けれどわたしは変わらぬわたしのままで
こうして今しばらく生きることを赦されている。
このごろは、人生の意味を考えるようになった。
わたしは、なんのために生かされているのだろう?
すると江戸の人が答えてくれた。
なんのためでもいい。
とりあえず生まれて来たから、
いまの生があり、そのうちの死がある。
それだけのことだ。
人生の意味を問うなんて野暮だった。
生意気だった。青かった。
すべからく経済の世、風の流れぬ里となって久しい現代では、
年相応に老け衰えつつ、それなりの人生を死ぬまで生きる
というあたりまえのことが遠くなった……と
杉浦日向子さんは江戸のフィルタを通して語りかけてくる。
『うつくしく、やさしく、おろかなり 私の惚れた「江戸」』
杉浦日向子/筑摩書房
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